ねじ切り編 （汎用旋盤）・・・rev.4
タップ・ダイスでの加工ではなく、ねじ切りバイトを使用したねじ切り加工です。
加工したいねじ・ナットのサイズが所持しているタップ・ダイスで加工できればいいですが、大径サイズや安易に入手できないタップ・ダイス、多条ねじ等の場合は旋盤でのバイトを用いたねじ切りを行う必要が出てきます。
・ねじの基本
大前提として「ねじとナット」がありますが、切削を行うには規格を知る必要があります。
・ねじの山
ごく一般的なねじの場合、「メートルねじ」がほとんどで山の角度が60°です。配管などに用いられる「管用テーパーねじ」はこの山の角度が55°になります。
他にも様々なねじがありますが、テーパーねじでない場合はバイトの形状がねじ山の角度に適合していれば基本的に加工が行なえます。（台形ねじ等）
ちなみに「インチねじ」の場合も山の角度は60°です。
・ねじのピッチ
ピッチというのはねじ山の谷から谷までの距離のことを指します。ねじまたはナットを1回転させるとそのピッチ距離分移動することになります。（ねじリード）
例としてピッチ1.5mmというのは谷から谷（山から山）までの距離が1.5mmということです。実際に測る際にはピッチゲージと言うギザギザなノコギリ状のゲージを当てて調べますが、スケール定規等で10山で何mmか図ればその10分の1の数値がピッチになります。
インチねじの場合は1インチ（25.4mm）の距離に何山あるかが表されています。例えばインチねじのピッチが14の場合は1インチの距離内に14の山があるということです。すなわちインチねじのピッチは数字が多ければ多いほど細かくなり、少なければ少ないほど粗くなります。
多条ねじについてはねじピッチが規格の分多いもののことを指します。
簡単に言えば、その条数分ネジピッチに対して1回転させたときの移動量が多くなります。ネジピッチが1mmのねじは通常1回転で1mmねじまたはナットが進みますが、例えば2条の場合はその倍の2mm進みます。（ねじリード距離＝ねじピッチ×ねじ条数）
用途としてはカメラのレンズ等の光学機器によく用いられます。
・ねじ切削の基本
タップ・ダイスにてねじ切りを行う場合、上記の知識でほとんど十分ですが、バイトでのねじ切りを行う場合更におさえなければいけないポイントがあります。
・ねじの切り込み量（切込み深さ）
タップ・ダイスではワークの径を決めれば良かったですが、バイトでのねじ切りの場合は切込み深さ、切込み回数を把握する必要があります。
1.ねじ外径
タップ・ダイスでの加工と同様にワークの直径・内径を決める必要があります。
切削を行うねじ径よりコンマ1mm程度小さくすればいいとされている場合が多いですが、ねじ径の大小や求める精度によりその値も変わってきます。
値はJIS規格で決められており、例えばメートル並目ねじは「JIS B0209-1973」を参照するとねじの呼びに対する各寸法を知ることができます。（ネットで検索すると一覧が出てきます）
例えばM10P1.5のおねじであれば、ねじ外径が9.960〜9.770mmと規定されているため、加工の目安とすることができます。一般的にねじ呼び径が大きいほどその範囲（公差）が広くなります。
2.ピッチと切り込み深さの関係
メートルねじの場合は以下の図のように切り込み深さが決まっています。
おねじとめねじを合わせたときの高さHは次の式で求められます。
H = P・cos30° ≒ P × 0.866025
上記式より、ピッチによりねじの切込み深さが変わってくることがわかります。逆に言えばピッチが同じであればねじ呼び径が変わっても切り込み深さは変わりません。
切込み深さaは上記の図より、HからH/4とH/8を引いた値に先端の丸みを足した深さになり、次の式で求められます。
切込み深さa = 5H / 8 + 先端の丸み
先端の丸み = H / 4 - r（r：ねじ切りバイトのコーナ半径）
上記式より・・・例としてP1.5mm、バイトのコーナー半径が0.1mmの場合以下のようになります。
H = 1.5 × 0.866025 ≒ 1.299
a = 5 ×1.299 / 8 + 1.299 / 4 - 0.1 ≒ 0.811 + 0.325 - 0.1 = 1.036 [mm]
毎回計算が面倒、1/1000台まで求めたいという人はエクセルやスプレッドシートなどで計算式を作成しておくと便利です。
・切り込み回数
切込み深さの計算ができたら切り込み回数を決定します。ねじ切りは1回の切込みで完了させることはできないため、複数回に分けて切削を行います。
切削の方法には大きく分けてラジアルインフィードとフランクインフィードの二種類があります。前者はX方向（径方向）のみ切り込み量を増やしていく単純な方法ですが、フランクインフィードはX方向だけではなくZ方向（軸方向）の送り量も変化させてバイトの片刃のみで切削を行っていきます。（切子が片刃のみから出るため刃先への負担が少ない）
ラジアルインフィード→仕上げ切削向き（刃先への負担大）
フランクインフィード→荒切削向き（刃先への負担小）
汎用旋盤でのねじ切りでフランクインフィードにて切削するには予め縦送りと横送りの送り量を計算しておく必要がありますが、旋回台を用いることで簡単にフランクインフィード法にて切削を行うことができます。
旋回台を30°位置に旋回させ、刃物台はワークと水平に固定しておきます。こうすることで旋回させた縦送りのみ切り込み量を変化させればねじ山の片側にそってバイトを送っていくことが可能です。（管用ねじの場合は山の角度が55°なので半分の27.5°旋回させます）
また、この旋回台の位置を30°から29°程度旋回させることで修正フランクインフィードにて切削が可能です。修正フランクインフィードの場合、フランクインフィードで切削を行わない片刃がワークへ擦れてしまいますが、60°の山角度に対して数度角度をつけることでゼロカットとなる幅を減らし、切削抵抗を減らすことが可能です。
画像準備中
縦送り台を旋回させるとX方向の移動量と縦送りメモリの送り量に差が生じてしまいます。ダイヤルのメモリとX方向の移動量の関係は以下の式で求められます。
X方向の送り量 = 縦送りの送り量・sinθ [mm]
例えば30°に旋回させた場合、sin30° = 0.5なので単純計算縦送りで送った量の半分がX方向の送り量となります。すなわち、縦送りメモリそのままの量で送ってしまうと切込み深さが不足してしまいます。
30°の旋回であれば単純でいいですが、29°や29.5°の旋回の場合そうも行きません。縦送りのメモリにかける係数が0.485、0.492と半端な数字になってしまいます。この場合厳密に計算すればよいかというとそうではなく、最終切込み深ささえあっていれば問題ないので30°以内付近であれば縦送りメモリを倍送れば良いと覚えておけば大丈夫です。（旋回量が30°を超えない限り、係数0.5にて最終切込み深さまで切り込んだとしても深く切り込みすぎることはありません）
・代表的なねじ切り作業の手法
切り込み量の計算と旋回台、刃物のセットまで終了したらいよいよねじ切り作業です。
ねじ切りの方法にはいくつかパターンがあり、代表的な手法として2種類あります。
�� 1回の切り込みごとに主軸を逆転させて開始位置に戻す
自動送りレバーを入れ、1回の切削が終わったらバイトを一旦戻し（逃し）、主軸を逆転させて開始位置まで往復台を戻し、次の切込みに入る
この方法のメリットは自動送りを解除しないため�△諒�式で起こる可能性のある同期ズレによるピッチのズレが起こりません。
ただし、ねじ切り終了地点のタイミングを見て、バイトの逃し、主軸の逆転をほぼ同時に行うことになるため若干難易度が高めです。また、ねじ切りをストップさせる場所が端面付近の場合、バイトが逃しきれずに干渉する危険もあります。機械によっては逆転までの切り替わりが若干ゆっくりなものもあるので逆転するまでに干渉してしまうこともあります。
ねじの終わり付近に逃しが十分設けられる場合にはこの方法が適しています。
�� 1回の切り込みごとに自動送りを解除して開始位置に戻す
主軸の回転は正転のままで1回の切込みが終わったらバイトを一旦戻し、自動送りを解除して開始位置まで往復台を戻し、ねじ切りダイヤルのタイミングを見て再度自動送りを入れ次の切込みに入る
この方法のメリットは�，醗磴辰撞嫖焼虻遒鮃圓錣覆い燭瓠�機械の逆転切り替えのレスポンスは考慮しなくても良くなります。また、瞬時に送り台を停止させることができるため、端面位置に近い切削も�，諒�法より安全に行うことができます。
ただし、この方法にはねじ切りダイヤルが必要になるため用意するものが一つ増えてしまいます。また、ねじ切りダイヤルで自動送りを入れるタイミングをはかるためタイミングを間違えてしまうと正しくねじ切りが行なえません。
・実際に切削してみよう
例としてM6P1mmのねじ切りを行います。
はじめに切り込み量などの計算関係を済ませておきます。
H = 1× 0.866025 ≒ 0.866 ��
a = 5 ×0.866 / 8 + 0.866 / 4 - 0.1 ≒ 0.658[mm] ��
最終切込み深さは1.036mmですが、一度に切削することはできません。15回〜20回程度に分けて切削を行います。
今回は15回に分けて切削を行うので1回の切り込み量は0.658 / 15 = 0.0439[mm]となります。 ����
次に縦送りでの送り量について計算しておきます。旋回台を29°位置にするため、1回の送り量は倍ではなく若干多くなりますが、最終切込み深さの手前までは倍の計算で送って問題ありません。
インフィード29°の場合、旋回台は90°-29°=61°ですのでX方向に1mm送る場合の縦送り量は以下の式で求められます。 ��
X方向に1mm送る場合の縦送り量= 1 / sinθ= 1 / sin(90°-29°) ≒ 1.143[mm] ��
20回の関係を以下の表にまとめました。
切込回数 [回目] | 総切込量 [mm] | 縦送り量 @29°[mm] |
1 | 0.0439 | 0.0502 |
2 | 0.0877 | 0.1004 |
3 | 0.1316 | 0.1506 |
4 | 0.1755 | 0.2008 |
5 | 0.2193 | 0.2510 |
6 | 0.2632 | 0.3012 |
7 | 0.3071 | 0.3514 |
8 | 0.3509 | 0.4015 |
9 | 0.3948 | 0.4517 |
10 | 0.4387 | 0.5019 |
11 | 0.4825 | 0.5521 |
12 | 0.5264 | 0.6023 |
13 | 0.5703 | 0.6525 |
14 | 0.6141 | 0.7027 |
15 | 0.658 | 0.7529 |
上記表より、旋回台角度が小さくなると縦送りの送り量が多くなることがわかります。1回の縦送りの送り量は以下の式より0.0439mm/ sin(90°-29°)、0.0502mmにて行います。 ��
1回の縦送りの送り量 = 0.0502?[mm]
今回の例では14回（荒削り）+1回（仕上げ）となります。
残り1回の最終仕上げは縦送りではなく横送り移動によるラジアルインフィードにて行います。最終仕上げ横送り送り量は1回あたりの切り込み量なので0.0439mmとなります。 ��
縦送りメモリにて0.7529mmまで（荒削り）送った後、横送りメモリで0.0200mmまで（仕上げ）送って完了となります。
ここまでを整理すると、最低限以下の手順で計算を行っていけばねじ切りが行なえます。
�，佑言擇蠅鮃圓Ε團奪舛魴茲瓩襤�P（今回は1mm）
�▲團奪舛茲蟶能�切込み量を求める→a（今回は0.658mm）
��最終切り込み量より切り込み回数を決める→（今回は15回）
��1回の切り込み量を求める→縦送り送り量（今回は0.0439mm）
�ダ�回台角度を決める→θ（今回は29°）
��X方向に1mm送る場合の縦送り量を求める→（今回は1.143mm）
��1回の縦送りの送り量を求める→（今回は0.0502mm）
�┷能�仕上げ横送り送り量→（今回は0.0439mm）
計算が多いですが、エクセルやスプレッドシートなどでピッチと切込み回数、旋回台角度を入力すれば自動で計算が出るようにしておけば次回以降一瞬で各値が出るようにできます。
機械の自動送りギアカバーに記載されているねじ切り対応表からギアの組み合わせを確認し、ギアの組み換えを行います。
ねじ切りを行うワークを用意しバイトの芯高を合わせ、旋回台を29°にセットします。
センターゲージを使用してワークへ垂直にねじ切りバイトが当たるようバイトの角度を調整します。
縦送りメモリを0に合わせた後、横送りにてねじ切りバイトをワークへ接触させて横送りメモリを0に合わせます。
横送りでバイトを逃し、往復台を移動させ、横送りを0位置に戻します。
1回目の切り込み量を縦送りにて設定します。（今回1回目は0.0502mm）
ワークに切削油を塗布し、ねじ切りダイアルのタイミングを見て自動送りレバーを入れ、切削に入ります。
ねじ切りダイアルのタイミングは基本的に毎回同じ位置であれば問題ありません。（1と決めたら1のみ狙って自動送りレバーを入れる）
ねじピッチによっては「1，3，5，7」や「1または4.5」など他の位置で動悸でも同期がとれますが今回は省略します。
逃し位置までバイトが到達したら自動送りレバーを解除して横送りでバイトを逃し、往復台をねじ切り開始位置まで戻します。
横送りを0位置に戻し、2回目の切り込み量を縦送りにて設定します。（今回は0.1004
mm）
1回目と同様にねじ切りを14回目まで繰り返します。
最終仕上げは横送りにて0.0439mmの切削を行って完了となります。
・上手く切削できない場合の対処法
加工はできたが、ナットが通らない
→ピッチが合っているか、ねじ外径が合っているかを確認しましょう。
・ピッチが合っていない
→自動送りギアの組み合わせが正しいかを確認しましょう。
往復台にダイアルゲージを当て、チャックを1回転させたときに設定ピッチと同様の移動量になるか測定しても確かめられます。
・ねじ外径が合っていない
→使用する刃物にもよりますが、おねじの外径は呼び径より若干小さく仕上げてねじ切りを行います。
具体的な値についてはJISの規格を参照下さい。
並目→https://www.osg.co.jp/media_dl/mail_magazine/file/1705_t2.pdf
細目→https://www.osg.co.jp/media_dl/mail_magazine/file/1806_f3.pdf
ただし、さらい刃付きのスローアウェイバイトを使用する場合は、ねじ切りを行うねじの呼び径での切削にて問題ない場合もあります。（使用するチップの切削条件を確認の上）
・ピッチ、ねじ外径共に合っているがナットが通らない
?→切り込み量を確認しましょう。
H = P cos30°
a = 5H / 8 + H / 4 - r
a：総切り込み量 (mm) （半径値）
P：ねじピッチ (mm)
r：ねじ切りバイトコーナー半径 (mm)
sin30° = 0.5
cos30° = 0.866025
・ピッチ、ねじ外径、切込み量が合っているがナットが通らない
→切削条件を見直してみましょう。
かなり無理がある切削となっている場合、すべての計算が合っていても目的の深さまで切削が行えていないことがあります。
この場合、最終切込みを同じ送り量にて2回繰り返してみます。このとき、2回目の切削で切子が多く出るようであればワークや機械が負荷に耐えきれていない可能性があるため、切り込み回数を増やしてみましょう。（工具寿命にはあまり良くないこともありますが、切削の負荷は減らすことができます）
また、ラジアルインフィードにて行っている場合はフランクインフィードまたは修正フランクインフィードで切削を行ってみると切削負荷が抑えられる場合があります。
回転センターでワーク端面をサポートできる場合は行ったほうがワークの”たわみ”を抑えることができます。
