材料(業界ではワークといいます)を回転させて、回転している材料に刃物を当てて、目的の形にする機械です。
基本的に円筒形のワークの場合はこの旋盤をつかった加工が向いています。 向いているという意味は、旋盤を使わずに、他の工作機械を使って加工しても同形状のものは作れることもありますが、その場合およそ効率が悪くなります。 他の機械で無理して加工しても切削面が綺麗に見えなかったりしますので円筒形の部品は素直に旋盤で加工したほうがよいです。
下の絵は旋盤に円筒形のワークを掴(つか)んで回転させ、バイトと言われる刃物(切削工具)で切削している様子です。
刃物も金属ですので、全く機械加工のことをご存知でない方は、金属同士で金属の表面をりんごの皮のように剥(む)いていくということを不思議に感じるかもしれません。
でも金属も軟らかいものから硬いものまであって、その範囲も非常に広いため、硬い金属を刃物にすることで、それよりも柔らかい金属を削ることが出来ます。 柔らかい金属というと身近なところでは鉛や鉛合金の半田は代表格といえます。銅も知らない人がいないような金属で同じく柔らかい金属です。 それでも鉛や半田に比べれば固いため銅を刃物にして鉛を削ることが出来ます。 つまり2つの素材にある程度の硬度差があれば、硬いほうで柔らかいほうを切削できるということです。 鉄を被削対象にした場合も同様で、鉄よりも十分に硬い材料(たとえば焼入れした炭素鋼や超硬合金など)を刃物にすれば問題なく切削ができます。 よくお客様から「小型旋盤ではステンレスやチタンなどの難削材といわれる材料の切削は無理でしょうか?」と質問されますが、切削できるか出来ないかは旋盤の問題ではなくて、刃物の問題です。刃物と被削材の硬度差さえ確保すれば問題はありません。大概は超硬刃物を使えばOKです。 「難削材は切削負荷が高いのでは?」と思われるかもしれませんが、どちらかというと切削負荷の問題は材料硬度の問題というよりも切込み量の問題です。切込み量を少なくすれば切削負荷も減らすことが出来ますので硬い材料の場合は切込み量を減らせば問題ありません。
超硬刃と聞くと、「さぞ切れ味がよいだろう」と思われるかもしれませんが、超硬はいわゆる切れ味という意味では実はあまりよくないんです。
初心者の方は不思議に思われるかもしれませんが、一言で言うと超硬は硬いけど脆(もろ)いのです。だからあまり刃を鋭利にしてしまうと材料に当たった瞬間にすぐに欠けてしまって、刃がなくなってしまいます。そのため超硬の場合は刃を鈍(どん)角にして、欠けにくいようにしなければいけない宿命にあります。そのため仕上げに使うような鋭角な刃をつける用途には向きません。 その代わり非常に硬く切削時に発生する熱に強く熱による強度が落ちにくいという性質があるので、切削による磨耗に強く、鈍角の刃と大きな切込みでガンガン削っていく用途に向いています。極端な例では工場の大型旋盤などでは刃物角が90度以上!の超硬バイト(刃物)を用いてワーク(被削材)に対しミリ単位の切込みをしてゴリゴリむしりとっていくような用途などでも使われています。
小型旋盤では機械剛性が工場の大型旋盤のようにはないのであまり切り込みを大きくするとビビリといって切削時に振動が発生することがあります。その振動が出ると刃物角は小さい超硬刃の場合は刃が欠損してしまいます。
そのため小型旋盤の場合は、仕上げ切削時は超硬よりもハイスといわれる材質の刃物を用いたほうが向いています。(超硬刃物は鉄系のワークで使用すると親和性の問題で切削目がくもった様になることも問題)
ハイスとはハイスピードスチール(高速度鋼)の略で鉄ベースの合金ですが、鉄にクロム、タングステン、モリブデン、バナジウムといった金属成分を多量に添加したもので、超硬と比較すると、耐摩耗性において劣りますが靭性(粘り性)が高く、欠損に強いため、刃先を鋭利にしても欠損が生じにくい材料です。 一方で超硬よりも熱に対する耐久性は劣るのであまり無理をさせると切削による発熱によって刃がなまってしまいやすいです。 しかし、小型旋盤の場合は機械剛性も高くなく、生産速度重視の機械ではないので無理をさせる必要もないのでこのハイス鋼の刃物を用いることで切れ味の良い刃物で切削することが出来るため、切削も減らすことが出来る上に切削面も綺麗に仕上げることができます。おまけに、研ぎながら使えるためランニングコストが非常に抑えられるという特典もあります。このように小型旋盤とハイスの刃物は相性が良いです。
そんなことはありません。目的の形が決まっているのであれば、ワークの不要な部分を削れば完成です。 プロではないのですから極論的には旋盤のハンドルについている目盛りも使う必要もありません。マジックで基準線を描いたり、ノギスで寸法を確認しながらゆっくり削ればいいんです。
では、「旋盤工は誰でも出来る簡単な仕事なの?」と思わないでください。そんなことは決してありません。 職人の方は、仕事でやっていて、決められた時間にいかに多くの部品を正確に作るかが求められます。そのために最短の作業段取りを考えて、作業にあわせてこの刃物を使って切り込みはこれぐらいで主軸の回転数はこれぐらいぎりぎりまで高くして効率を上げて・・などそれはそれはすごい経験と技術を持っています。それが難しいのです。素人には旋盤の掃除もさせてもらえないでしょう。笑
でも、そういった制約がなくて量産でもない試作や研究用途、または趣味のための旋盤作業であれば、主軸回転数は低めにして切り込みも少しづつにして作業すれば刃物をいためることも少ないので、後はゆっくり寸法を確認しながら削っていけばいいんです。その意味では難しいことはありません。
旋盤の標準オプションには材料を旋盤で掴むための工具(3爪チャック)がついています。そのため円筒形の材料を掴むためのオプションは標準で間に合いますので、とりあえず最低限!ということであれば、あとは材料を削るための刃物(バイト)が必要です。 つまり旋盤本体の他にバイトは必ず必要になります。
しかし、それは少々極端でもありますので、旋盤市場で推奨する基本セットを書きにお示しいたします。
切削用刃物です。上述の通り必須です。
バイトの高さ調整用。バイトの刃先は被削材(ワーク)の中心に来るように旋盤にセットする必要があるためこれを使います。小型旋盤の場合は短いスケイタショートがお勧めです。
ドリル加工時に心押し台に取り付けて使用します。また、長物の場合、ワークの旋盤向かって右側を支持する必要があるので、そのための支持穴を開けるためにセンタードリルを使うときに使用します。
センタによるワーク固定用の支持穴を作るために使います。
上記長物ワーク加工時に、ワークの旋盤向かって右側を抑えるジグです。固定センタと異なりベアリングで回転するようになっているためセンタとワーク間の磨耗を防止できます。
実質的に上記のオプション類は作業時に頻繁に使うオプションになりますのではじめから用意されたほうがよいと思います。
その他は、作業内容で必要が生じたときに導入されても良いと思いますがもし最低限出なくても良いということでしたら、4爪チャックと移動振れ止めはあったほうが良いと思います。
旋盤のバイト(切削刃物)による加工を大別すると下記の4つがメインになります。
外周切削は、旋盤で最も多用する切削パターンですが、特に難しく考えることはありません。 初心者の場合は、旋盤主軸の回転数を低速にし、切込み量も少な目のゆるい切削条件からスタートすれば失敗がありません。 主軸の回転が高すぎると切削時の発熱でバイトがなまってしまい切れ味が落ちてしまいます。 切込み量が多い場合は、切削負荷が大きくなってバイト刃物台が振動し切削面が荒れたり、ひどい場合は主軸の回転力が負けて主軸が停止してしまいます。 初めはゆるい切削条件でスタートして余裕がありそうな場合は、徐々に回転数を上げたり切り込みを増やしたりしていけばよいでしょう。条件が厳しくなるにしたがって切削時の音や旋盤の振動が大きくなるなど何らかの症状が出てきます。その場合は少し条件をゆるくすればOKです。切削油を使用する場合は切削時の熱による油の気化の煙の出方でも判断できます。切削時の切子の色でも判断できます。条件が厳しくなると茶色や紫色になったりってきます。この辺は実際に切削するとすぐにわかりますので難しく考える必要はありません。
端面切削の場合も上記と同じですが、この切削はバイトがワーク(被削材)の中心から遠ざかるにつれてワークとバイトの接触面の速度差が大きくなりますので切削条件的には外径に近くなるほど厳しくなります。 したがって、ワーク外周で速度を基準に旋盤の主軸回転数を決めておけば条件超過による切削の失敗がありません。
中ぐりは、バイトの軸の部分形状が最も重要になります。ワークの内側を切削するためワークの内壁にバイトを入れるため内径が小さい場合はスペース的にバイトの刃以外の部分がワーク伊内壁に当たりやすいためです。 あと、ワークに対するバイトの刃先の高さも他の切削に比べシビアになるので(定石どおりワーク中心がバイトの刃先の高さと一致するように)注意します。 切削条件的な注意点は外周切削と同じで特殊な部分はありません。
突っ切りは、材料の一部分だけ切り出すとき切削したり、ワーク外周に溝を掘ったりするときに用います。 突っ切りしなくても良い仕事の場合は、無理に突っ切りする必要はありません。金鋸やワークを旋盤からはずしてバンドソーや高速カッターなどで切断し、切削面を旋盤で追加工すると作業が早く合理的です。 一方で精度重視の仕事の場合は、突っ切りが有利になります。突っ切りでの注意点はバイトの刃先の形状や切れ味、ワークに対する刃先の高さ、主軸回転数などが重要になります。基本的には刃先形状が平刃になっているため、ワークと刃先の接触幅が1mm前後になりますので、他の切削方法に比べ切削負荷が大きくなる傾向にあります。そのためバイトの切れ味が最も大切になります。切れ味を高めるためには刃先のすくい角を大きくしたり逃げ角を大きく取ったりしますがそうすると刃の強度が弱くなりますので旋盤の回転数はなるべく低くして切削時の発熱を抑えるようにしてバイト刃先をいたわります。
道具や工具などで、「小さな対象に対しては小さな道具や工具を使用したほうが適している」といったものもあると思います。
では、旋盤でもそれが当てはまるか?と問われると答えは「いいえ」となります。 理由は旋盤やフライス盤の場合は、加工の際に想像以上の切削反力が機械にかかってくるため、まずはそれに耐えうる剛性が要求されます。その解決策として最も手っ取り早いのが機械を大きくすることで、通常は大きさに比例して剛性は向上しますので結果的に精度が向上するのです。他にも、機械摺動部の接合面の当たり幅(長さ)が機械の大きさに比例して長くなるので、摺動部のがたが小さくなると言う理由もあります。
作りたい部品があるとします。
次にこの部品を作るためにはどれぐらいのサイズの旋盤が必要になるだろうか?と考えた場合、まず確認すべきところは2つあります。
ひとつは「ベッド上の振り」です。 これはこの旋盤はこの値までの直径の部品を(振り)まわすことが出来ますという意味です。
作りたい部品の直径が200mmの場合、ベッド上の振りが200mm以下の旋盤では物理的に旋盤で部品を回転させることができませんので加工が不可能です。
そのため旋盤選定の際は最低でもベッド上の振りが200mm以上となっている旋盤を検討する必要があります。 最低でもというのは仕様上限値に近い大きさのワークを加工することは旋盤にとって非常に負担がかかるため、切削も難しくなってしまうからです。
このことは乗り物で走る速さにたとえると(種類は違いますが)イメージ的にはわかりやすいかもしれません。 例えば最高速度が100Km/h軽自動車を買ったとします。では100km出るからといってこの車でその速度付近で快適に走ることは出来るでしょうか?おそらく大変困難です。エンジンは目一杯で唸るし、100kmに達するまでにかなり時間がかかり、振動も出ます。コーナリングやブレーキも心配です。一応100km出ます;みたいな感じで実際この領域で気持ちよく走るのは難しいでしょう。 おそらくこの軽自動車で安心して乗れる速度領域は60-70km/hでまあ何とか80Kmぐらいまでは使えるという感じではないでしょうか? 旋盤もそんなイメージで考えてください。工作機械は仕様上限付近で使うと無理が生じやすい種類の機械です。それだけ金属を切削するということは負担が大きいので、余裕を持った選定をお奨めします。
もうひとつは「心間」です。 これは主軸と心押し台間でこの値までの長さの部品を把握できますという意味です。
これも上記と同じで、最大値付近で作業すると困難が生じますので余裕を持った選定が必要です。ただし旋盤作業的には長物加工の比率は一般的にはそれほど多くないので、長尺加工目的で旋盤を導入する場合を除いて通常はあまり優先しなくても良いことも多いです。