頭文字のアルファベットは
CNC:(Computerized Numerical Control)コンピュータによる数値制御という意味です。
つまりCNC工作機械とはコンピュータによって工作機械を数値制御し、部品加工を自動化できる機械の意味です。
コンピュータを用いないNC工作機械が存在した頃は、NCとCNCは明確に区別されていましたが、CNCの普及によって殆どの機械がコンピュータ制御になった現在は、区別されずに両者を合わせてNC、NC機械などと呼ばれています。
※本文では以降NCと記載します。
NC工作機械に実際に作業(動作)の指示をするためには下記のような「Gコード」と呼ばれる作業指示コードをNC機械に直接打ち込むか間接的にロードして伝えます。
例:G00 X0Y0 / [G00]最高で移動 座標[X]を[0][Y]を[0](原点)に
例:G01Z-1. F40. / [G01]直線移動 座標[Z]を[-1.]mmまで 分速[F40]mmで
例:X20.25 / 座標[X]を[20.25]mmまで
基本的に、命令 + 座標 の繰り返しで普段使う重要な命令数は数種類程度です。
初めてGコードを見ると難しそうに見えるものですが、実際は小学生でもわかる程度の簡単な命令です。
実はこの「簡単さ」こそが NC工作機械を使う上での最大のメリットなのです。
非NCの工作機械作業では、作業者はあらかじめどのような手順で加工し目的の部品を作るかを加工始めから終わりまで計画してから作業にあたります。
そして作業時はその工程中は終始座標の計算・カウントをしながら最適な刃物の送り量も考えながら手送りで切削していきます。
特にフライス盤での作業では、作業者は部品が仕上がるまで終始一貫してミスなく作業する必要があります。ここに曲線や複雑な形状の加工でも入ろうものなら、それは匠の世界になってしまい効率が極端に悪くなります。
NCでは、機械が常時100%の集中力で何時間でも作業を代わってくれます。
非NCとNCの特徴
|
作業計画 |
材料 |
作業ミス |
高度な |
長時間 |
繰り返し |
作業者の |
非NC |
あり |
あり |
あり |
△ |
△ |
△ |
多 |
NC |
あり |
あり |
なし |
◎ |
◎ |
◎ |
少 |
前述でなんとなく漠然としたメリットがありそうだとわかっても、「NC?CADとかいろいろ使うんでしょ?作業するまでの準備が大変そうだし、勉強する時間もないからからとてもじゃないけどできないよ」と思うかたもいるのではないでしょうか?
そう思った方はNC加工をおそらく「3Dモデリングマシーン」等による3次元造形切削や彫刻切削などを得意とする機械での加工をイメージしているのかもしれません。確かにそれもNC加工に違いありませんが、それはNC加工から派生した1つの加工ジャンルでありどちらかというと特殊な用途といえます。
弊社CNC製品の場合は、ジャンル的には「小型汎用NCフライス盤」となります。加工形態はいわゆる「NCフライス加工」になりますので、上記3Dモデリング加工が専門ではなく、もう少し一般的な(汎用的な)部品加工が主な用途となります。
ちょっとした部品加工から始まって、手送りで行なっていた作業の代替、手送りでは難しい高度な円弧切削や角度切削等 を「正確に」「高精度に」「何回でも同じように」加工することを最も得意としています。(NCフライス盤はもともとそういった用途の機械です)
|
3D造形 |
一般部品加工 |
重切削 |
大径刃物 |
機械剛性 |
材料の |
3D機 |
◎ |
△ |
△ |
△ |
△ |
△ |
NCフライス |
△※ |
◎ |
○ |
◎ |
◎ |
◎ |
※3D造形加工もできますが3D造形の場合は微細な刃物を高速回転させる必要があるため切削に時間がかかります。NCフライス盤では大径刃物を大きなトルクで駆動させる仕様のため主軸最高回転数が3D機よりも低くなるためです。
フライス作業では、非NCの場合(手送り)でも部品加工終了までの段取りはあらかじめ計画してから実際の加工作業に入ります。
つまり非NCの場合、作業者は「正しく作業工程を段取ること」「あらかじめ決められた切削工程をいかに間違いなく終了まで続けること」が最も重要になります。
例えば、下図のような部品を製作する場合
これで作業が終了となりますが、非NC作業ではハンドルの回転数の把握を確実にしながら間違いなく一定の速度で送り操作する必要があります。
また材料の板厚が上記よりも厚い場合は2回以上に切り込みを分ける必要があるため、上記工程中が繰り返し行われることになります。
非NCの場合でも「どこからどこにフライス盤のテーブルを移動するか」の座標は取得しますので、 この座標をNCで利用してみます。
(以下Gコード作成)
M03
G00 Z10
X0Y0
X10.Y10.
Z1.
G01Z-2.1F20.
Y60.
G00Z1.
X35.
G01Z-2.1
Y10.
G00Z1.
X60.
G01Z-2.1
Y60.
G00Z1.
Y35.
G01Z-2.1
X10.
M05
説明のために具体的な考え方等の説明は省略しますが、上記コードをNCに入力し、切削開始ボタンを押します。
基本的にはこれで終了となりますので、NCの優位性を感じていただけたのではないでしょうか。
したがって一度NCフライス盤を使った人は、その便利さ・正確さから、手送り切削に戻る気持ちはなくなってしまうものです。同時にその工作能力の高さから今までは諦めていたような高度な部品の製作に対しても「この機械があればできる」と実感します。
また、コスト面でも作業拘束の短縮や部品の歩留まりの向上、今まで作成できなかった部品の作成が可能になる等で導入コスト以上のメリットがあるため、製造現場でNC加工機が普及したのは自然の流れといえます。
流れとしては
CADで作図 → CAMでGコードを生成 → NCフライス盤に読み込ませ加工といった要領になります。
パターン1: 簡単な加工をGコード行なってみる
NC加工をわかりやすく理解するために単純なフライス加工をNCフライスで作業してみます。
例えば、下図のように被削材を原点(XYZ軸0mm)からX軸方向に+5mm、Y軸+1mm、Z軸切り込み-1mm加工したいとします。
段取りとしては
となります。
被削材をフライス盤テーブルに固定した後、被削材に対する原点合わせをします。
エッジファインダー等の端面位置を容易に割り出す道具を使う方法もありますが、ここでは簡単で実用的方法で説明します。
初めにフライス盤主軸にこの加工に使うエンドミルを取り付けてX軸の端面(0位置)を出すため、フライスのテーブルを操作してエンドミルを被削材のX端面に近づけていき、ぶつかる寸前で止めます。反対側から光を当てると見やすくなるので位置合わせがより正確になると思います。
ここで2Φのエンドミルを使用したとすると、この半径分1mmを足した場所がX軸の原点(X0)になりますので、NCの画面のX軸の座標欄に-1を入力します。
Y軸も同じようにY軸端面にエンドミルを近づけてぶつかる寸前でY軸座標欄に-1を入力します。
Z軸は、エンドミルを主軸工具ホルダーに緩めに固定しておき、Z軸を操作して被削材の上から工具を下げていきぶつかったところが直接のZ軸の原点となります。この後エンドミルを本締めして主軸に固定し、NCのZ軸ゼロ設定ボタンを押します。(Z軸座標欄に0を入力しても構いません)
これで原点合わせが終わりました。
最初に示した加工内容の座標はあくまでもこのように被削材を加工したいということであって、実際の材料に対する刃物の切削パス(軌道)は、原点合わせのときと同じように使用する刃物の直径によって変わります。
例えば切削刃物に標準のストレートタイプの2Φ(直径2mm)エンドミルを使用した場合、X軸とY軸では刃物直径の中心が座標基準点になり、Z軸に関しては刃物の刃先底面が座標の基準点になります。
つまりX軸の場合、被削材をX+5mm(X5)まで削りたい場合は、刃物が被削材に接触する座標は刃物の座標基準点(刃物中心)から刃物の半径分オフセットされるので、目標の座標(+5)からエンドミル半径分を引いたX0からX4になります。
Gコード表記ではX4.
※数字の後にピリオドが付くのは4が整数であることNCに示すためです。0ゼロの場合は小数点以下がないので不要です
Y軸も考え方は同様ですが、この場合既にエンドミル半径分1mmで削りたい1mmになっているので刃物切削パスはY0のままでよいです。
Gコード表記ではY0(原点のまま)
Z軸に関しては、刃物が被削材に当たるところがそのままZ0になりますのでZ0からZ-1までが刃物のパスになります。
Gコード表記ではZ-1.
実際の作業の流れでは、
となります。この加工をするためのやり方は何通りかありますので以下に書いてみます。
前述で計算した座標を元にGコードを作成します。
G01 Z-1.F20 /G01は直線移動(補間)座標Z-1に[F20]分速20mmで
X4. /座標X4まで移動
切削に必要なGコードはこれだけですのでこれを使います。
さらに自動化させるべくGコードを追加してみます。
G00 Z10. /G00は現在設定されている最高速度で移動 Z10.はZ軸を+10mmまで
※Z+10まで移動するのは刃物を安全な場所に退避する意味
X0Y0 /高速に座標X0 Y0に移動
M03 S2000 /M03は主軸スタート S2000は主軸回転数(RPM.)
Z1. /高速でZ1に移動
G01 Z-1.F20 /G01は直線移動(補間)座標Z-1に[F20]分速20mmで
X4. /座標X4まで移動
G00 Z10 /座標Z10まで高速移動
M05 /主軸ストップ
これをPC上でファイル化しNCに読み込んでスタートボタンを押して加工します。
前述までの話はあくまでもデジタルの世界での話で、その世界で仕上がった部品は理想的な精度の部品です。ところが、実際に加工された部品の精度は加工する機械の設計や特性により異なってきます。
計算結果であるGコードをNC装置が正しく解釈し、延長線上のNC駆動用モーターを寸分違わず駆動するのは当然のことで、ここが間違えることはまずありません。
では計算通りに加工される上で重要な要素は何でしょうか?
それはNC工作機械の優劣を分ける最も重要な要素でもある、「いかに計算通りに加工されるか」です。NC駆動用モーターを含めたNC装置で重要なのは「工作機械そのものをどれだけ正確に操作できるか」であり、NCフライス盤で言えば、NC装置から与えられた信号を「どれだけ確実に可動部のテーブルやZ軸の動きに正確に反映させることができるか」ということです。
NCというとデジタル制御の代名詞のように感じるものでデジタル設計部分が重要と思いがちですが、実際はアナログ部分の、「機械摺動部とNC機構部連結部の総合的な設計」のほうが余程重要です。
というのも、いかにデジタル制御のノウハウがあり、それがすばらしい回路設計であってもNC機械の場合は[ X1 + X1 + X-1 ] という計算結果が毎回必ず[ X1 ]になれば良いので、それで結果に差は出ません。
差があるとすれば、その電子回路の長期信頼性になります。
ですが、機構部分に関してはその設計によって与えられた[ X1 + X1 + X-1 ]という移動情報は良い機構設計であったとしても[ X0.995 ]となるなど実際の移動量は計算上の移動量とは多少異なってきます。
つまりこの機構部分が設計が良くない機械の場合はその誤差が大きくなるというわけです。
弊社NC開発にあたってはこれらの部分を総合的に研究して設計しております。
よく、非切削領域での移動速度(F値)を高めるためまたはコスト削減のためにテーブル送りねじに直接ステッピングモータをカップリングしている小型のNC機械も見かけることがあります。
金属加工用途では、小型機械ではジブのアリ溝に対する当たり面積が小さいため、加工時の荷重に耐えうるジブ調整をする必要があります。この場合は切削時の荷重に耐え、摺動部にガタが発生しないようきつめのジブ調整が必要になります。
そのような直動式の小型機械で金属加工に耐えうるジブ調整をした場合は無負荷でこそステッピングモーターの脱調(入力パルスと実際の回転のずれ)はないかもしれませんが、弊社で以前直動式を研究していた際は切削負荷がかかった場合や摺動部の条件が悪くなった場合にしばしば脱調が認められたため、弊社では直動式ではこれに対するマージンが少ないとの結論になりました。
したがって弊社では1年以上の各種切削試験の中でタイミングベルトによる減速式の駆動機構を採用することし、切削領域でのテーブル移動速度も切削工具の制限速度以上の移動速度を確保しつつ、きついジブ調整時で強い切削負荷がかかった場合でも脱調することなく常に安定して可動させることができるようになりました。
特に見えない部分ですがNCでの送りの場合、送りねじとそのブラケット部のクリアランス(ガタ)は絶対にあってはならずそのためにここにもプリロード(与圧)を与える必要がありますが、そういった与圧を各部にあらかじめ加えた状態でもタイミングベルト式では脱調を起こさないということです。
この状態でテーブルを送り、その動くテーブルを手で押さえても機械の方が脱調なしに移動する程のマージンを確保しています。
脱調を起こせばその時点で工作は失敗となるため、工作をやり直すことになりますが、やり直したとしてもまた同じ所で脱調する危険性があるので摺動・機構部の調整の条件を緩めざるえ得ず、その結果として精度が落ちてしまうため、オープンループ式のNCの場合は特にここを徹底して追求する必要があります。
ここまで読んで、なんとなくでもNCフライス盤についてイメージができたでしょうか?
何でもそうだと思いますが私たちはイメージできない(しにくい)ものは必要以上に難しく感じてしまうものだと思います。特に知識が不足している段階での「NC工作機械を操る」というイメージは特に重圧があるのではないでしょうか?
かく言う私も初めてNC機をさわった時ははそうでした。学生の方であれば学習するのが仕事のようなものですからそういった意味での時間は十分あるのでそれが楽しいのかもしれませんが、われわれ社会人にとってはこの知識を得る時間とのバランスが予想しにくいためつい尻込みしてしまいがちです。
この講座ではその葛藤の中、寄り道しながらたどり着いた過程を思い出しながら、その時自分が知りたかったことをベースにして「これを読めばわかる」という最短距離を目指して書いています。
次回はちょっとしたものを作りながら弊社NCフライス盤を使った実践講座をお届けいたしたいと思います。